いじわるな神さま

あるところに、男の子とおかあさんがいました。
男の子はおかあさんのことが大好きだったので、いつもいっしょでした。

あるとき、男の子がおかあさんにききました。
「どうしてぼくにはおとうさんがいないの?」
おかあさんは、ほんのすこしさみしそうなかおをして言いました。
「とおくにいっちゃったのよ」
男の子にはそのいみがよくわかりませんでしたが、おかあさんがかなしそうなかおをしているので、
それいじょうきこうとはしませんでした。

男の子は、おかあさんのひざの上でねむるのが大好きでした。
あったかくて、お日さまみたいなにおいがするからです。
男の子は大好きなおかあさんと、ずっといっしょにいられると思っていました。

でも、おかあさんはびょうきになりました。
どんなおいしゃさんでも、どんなくすりでもなおせない、
むずかしい名前のびょうきでした。

男の子はとおくにいるおとうさんに、おかあさんが元気になるようにおねがいしました。
おかあさんがいつも「おとうさんはとおいところにいるけど、
おかあさんたちをまもってくれてるんだよ」と言っていたからです。
なんどもなんども、おねがいしました。
でも、おかあさんはよくなりませんでした。

男の子は、おかあさんにおしえてもらったおまじないをしました。
いつも、ころんだときにしてもらうおまじないでした。
おかあさんのいたいところをさわって、男の子は言いました。
「いたいのいたいの、とんでけ」
ねむくなっても、おなかがすいても、男の子はがまんしてなんども言いました。
「いたいのいたいの、とんでけ」
だけど、おまじないはききませんでした。

だんだん、おかあさんは元気がなくなっていきます。
男の子はなきました。食べることもねることもわすれて、なきました。
やがてなみだが出なくなると、男の子はいのりはじめました。
食べることもねることもわすれて、いのりました。

それでも、おかあさんはよくなりませんでした。
男の子がよんでも、なにも言ってくれません。

男の子はいのりました。
おかあさんのこといがいは、なにもかもわすれていのりました。

すると、どうでしょう。
男の子のまえに、神さまがあらわれたのです。
でもそれは、いじわるな神さまでした。

「おかあさんを、元気にしてください」
男の子が言いました。
「かんたんなことだ」
神さまが言います。

「でも、そのためには、おまえのすきなものをひとつ、わたしはけさなければならない。
わたしがけしたものは、もうだれも、見ることも、きくことも、さわることもできなくなる。
おまえは、なにをけす?」

男の子はこまりました。男の子のすきなものは、みんなおかあさんもすきだったからです。
すきなものがひとつでもなくなれば、おかあさんがかなしみます。
男の子は、おかあさんをかなしませたくありませんでした。

「さあ、なにをけす?」
神さまが、もういちどききます。
男の子は、言いました。

「ぼくを、けしてください」
と、男の子はわらいました。

いじわるな神さまは、なきました。
かなしくないのに、なきました。
かなしくないから、なきました。

ぽろぽろ、ぽろぽろ。
大きななみだが、いくつもこぼれます。
なみだは、おかあさんの上にもおちました。

すると、ふしぎなことが起こりました。
つめたかったおかあさんの手が、だんだん、あたたかくなっていったのです。

おかあさんがもうすっかりあたたかくなったころには、神さまはいなくなっていました。
男の子はおかあさんにだきついて、たくさんなきました。
それから、おかあさんの作ってくれたごはんを、たくさん食べました。

そして男の子は、おかあさんのひざの上で、たくさん眠りました。
ずっとずっと、お日さまのにおいがしていました。



   


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