ひとりぼっちのいる森

あるところに、小さな森がありました。
いろんな生きものがいる、きれいな森でした。
とりやさかな、いぬやねこ、大きいのも小さいのもみんななかよくくらしていました。

だけど、へびだけはなかまはずれでした。いつもからかわれたり、わらわれたりしていました。
なにか、わるいことをしたわけではありません。おかしなことをしているわけでもないのです。
でも、へびはいつもひとりぼっちでした。
あんまりいつもひとりなので、へびもいつのまにかなれてしまいました。


みんなは楽しそうにはなしたり、あそんだりしています。
とりはうたいながら空をとんでいます。さかなはきもちよさそうにおよいでいます。
いぬは力づよくあたりをかけまわり、うさぎは元気よくとびはねています。

ほんとうは、へびもなかまに入りたいのです。でも、それはできないのです。
へびはのそのそとはうことしかできません。
とぶことも、およぐことも、はしることもはねまわることもできないのです。
だから、きょうもひとりです。
わらわれたり、からかわれるのがいやだから、ひとりです。


その日もいつもと同じように、みんなは楽しくすごしていました。
へびもあいかわらず、ひとりで空を見ています。

「また、ひとりなのかい?」
年よりもぐらが、穴からかおだけを出していました。
へびはこまったように、少しわらいます。
「みんなが、きらいなのかい?」
「ちがうよ」
へびはみんなを見ながら、そうこたえました。
「ぼくは、とぶこともおよぐことも、はしることもおよぐこともできないんだ。
だから、ぼくがいてもなんにもおもしろくないよ」

もぐらがいいかえそうとした、そのときでした。
「どうしよう……」
今にもなきそうなしろねこが、みんなのまえにあらわれました。
「どうしたの?」
あそんでいたどうぶつたちが、しろねこのまわりにあつまります。
しろねこはやさしくて、まっしろなけなみがきれいだったので、みんなだいすきでした。
そのしろねこに元気がないのです。しんぱいしないはずがありません。
「どうしたの?」
こんどは、さるがききました。
「いしを、なくしちゃったの……」
しろねこはいつも、きれいないしをくびにかけていました。
青くて、ぴかぴかしたいしです。ほかにはどこにもない、すきとおったいしでした。
「さがそう」
だれかがいいました。

さかなは水のなかをさがし、とりはたかいところを見まわります。
いぬはあちこち走りまわり、むしはくさをひとつずつしらべます。

けれども、見つかりません。

だれかが、ひそひそ声でいいます。
「もしかしたら、ぬすまれたんじゃない?」
べつのだれかが、またひそひそ。
「もしかしたら、へびじゃない?」


「さがすのかい?」
もぐらにきかれ、へびはうなずきます。
「うん。ほかのみんなが、さがしてないところを」
「しろねこだって、わらったりからかったりしてるんだろう? それでもさがすのかい?」
「あの子はそんなことしないよ。もぐらさんは、どうしてあの子がいしをだいじにしてるか、しってる?」
「いや、しらないなあ」
「ぼくは、しってるよ。ひみつだけどね」


しろねこは、この森にくるまえ、にんげんの女の子のいえにいました。
女の子は、たくさんしろねこをかわいがりました。ねこもたくさんあまえました。
ある日、女の子はねこにじぶんのたからものをあげました。とてもきれいな、いしでした。
女の子はねこがだいすきでした。ねこも女の子がだいすきでした。
だけど、女の子はある日、きゅうにいなくなりました。
「くるま」にぶつかったらしいのです。「くるま」はあぶないと、女の子はいつもねこにいっていました。
その女の子が、「くるま」にぶつかりました。
みんなかなしくて、なきました。
ねこもかなしくて、なきました。女の子がいなくなったことを、しんじたくありませんでした。
だから、ねこはいえをとびだしました。
女の子はいないとわかっていましたが、それでも女の子と会いたくて、いえをでました。
やがてねこは小さな森を見つけ、そこにくらすようになりました。
ねこはだんだんげんきになっていきましたが、女の子からもらった青いいしは、ずっとくびにかけていました。

しろねこは、ひとりぼっちのさみしさをしっていました。
だからけして、へびのことをわらったりしませんでした。


へびは、いしをさがします。どろの上をはいまわり、くらい穴のなかにはいり、かれた木にのぼります。
だけど、見つかりませんでした。ほかのみんなも、見つけられません。
はっぱの下、ねっこのかげ、いわの上。
いろんなところをさがしたけれど、やっぱりいしは見つかりませんでした。

へびは、ひみつのばしょにいくことにしました。
そこはへびと、まえにいちどつれてきたしろねこしかしらないばしょでした。
そこは、へびがかなしくなったときに、ひとりぼっちになるためのばしょでした。
ひとりぼっちでなくためのばしょでした。

へびはなきました。
しろねこのさがしものをみつけられなかったのが、どうしようもなくかなしかったのです。
ぽろぽろ、へびはなきます。ぽろぽろ、なみだがおちていきます。
ひゅう、と風がふきました。ころころと、なにかがころがります。
もういちど、ひゅう。
ころころこ、こつん。
ころがってきたものが、へびのからだにぶつかりました。
それは、すきとおった青いいしでした。

「ありがとう」
へびからいしをわたされたしろねこは、とてもうれしそうにわらいました。
「おまえがぬすんだくせに」
だれかのこえがきこえました。へびはなにもいわず、ちょっとこまったようにわらうだけです。
「おまえがぬすんだんだろう」

「だいじょうぶだよ」
しろねこはそういうと、大きなこえでなきました。
今までだれもきいたことのない、とても大きななきごえでした。
森は、しんとしずかになりました。しろねこはまた、わらいます。
「ほんとうはね、あのばしょにわざとおとしてきたんだよ。きみとともだちになるきっかけがほしかったから」
「ぼくはおよげないし、とべないし、はしりまわることもとびはねることもできないのに?」
「うん。きみだから、ともだちになりたいんだよ」
しろねこはいしをわたされたときよりもずっとうれしそうなかおでわらい、いいました。
「ともだちになろう」
へびも、わらいました。


あるところに、小さな森がありました。
いろんな生きものがいる、きれいな森でした。
とりやさかな、いぬやねこ、大きいのも小さいのもみんななかよくくらしていました。

ひとりぼっちは、もういませんでした。



   


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